家賃滞納から強制退去までの流れ|大家が知るべき手順と注意点を解説

最終更新日:2026年7月29日

「入居者が家賃を払ってくれない。どこまで待てばいいのか」
「何ヶ月も滞納が続いている。強制退去させるにはどうすればいいのか」
このような悩みを抱える大家さんは少なくありません。

家賃滞納は、不動産投資や賃貸経営で起こりやすいトラブルのひとつです。最初は単なる振込忘れだったとしても、対応が遅れると滞納額が膨らみ、回収が難しくなる可能性があります。さらに、焦って鍵交換や荷物の撤去などをしてしまうと、大家側が損害賠償を請求されるリスクもあります。

結論からいうと、家賃滞納が発生したら「しばらく様子を見る」のではなく、初期段階から記録を残しながら段階的に対応することが重要です。ただし、入居者を強制的に退去させるには、大家が独断で行動するのではなく、契約解除、明渡し請求訴訟、強制執行という法的手続きを踏む必要があります。

この記事では、家賃滞納が発生してから強制退去に至るまでの具体的な流れと、各ステップで大家がとるべき行動、絶対にやってはいけないNG行為、滞納を防ぐための予防策を解説します。

家賃滞納はどのくらいで「問題」になるのか

家賃滞納は、滞納日数によって対応の緊急度が変わります。滞納が1日〜2日程度であれば、振込忘れや銀行手続きの遅れ、引き落とし口座の残高不足など、単純なミスである可能性もあります。この段階では、いきなり強い言葉で督促するのではなく、まずは入金状況の確認と軽い連絡から始めるのが基本です。

一方で、滞納が1ヶ月を超えると、単なるミスではなく、意図的な不払い・収入減少・生活困窮などの可能性も出てきます。さらに2ヶ月、3ヶ月と滞納が続く場合は、回収不能リスクが高まり、契約解除や明渡し請求を視野に入れる段階です。

ただし、「3ヶ月滞納したら自動的に退去させられる」というわけではありません。賃貸借契約を解除するには、原則として相当期間を定めた催告を行い、それでも支払いがない場合に解除を検討する流れになります。

また、賃貸借契約では、単なる不払いだけでなく、貸主と借主の信頼関係が破壊されたといえるかどうかも重要な判断要素になります。民法541条は、相当の期間を定めた履行の催告と、その期間内に履行がない場合の解除について定めています。

目安としては、以下のように考えるとよいでしょう。

滞納期間 状況の目安 大家が取るべき対応
1〜2日 振込忘れ・残高不足の可能性が高い SMS・電話・メールで確認
1週間前後 入居者が忘れている、または支払いが遅れている可能性 再連絡し、入金予定日を確認
1ヶ月 意図的な不払い・経済的困窮の可能性が出てくる 書面で督促、保証会社・管理会社へ連絡
2ヶ月 滞納が慢性化するリスクが高い 内容証明郵便で督促、弁護士相談を検討
3ヶ月以上 契約解除・明渡し請求を検討する段階 契約解除通知、明渡し請求訴訟の準備
4ヶ月以上 滞納額・損失が拡大しやすい 訴訟・強制執行を具体的に進める

重要なのは、「3ヶ月まで何もしなくてよい」という意味ではない点です。
むしろ、滞納対応は早いほど回収率が高くなります。1ヶ月目から記録を残し、保証会社や管理会社と連携し、2ヶ月目には法的手続きも視野に入れて準備することが大切です。

家賃滞納が発生したら最初に確認すべきこと

家賃滞納が発生したときは、すぐに督促する前に、まず事実関係を確認しましょう。

大家側の入金確認ミスや、管理会社からの送金遅れ、入居者による名義違いの振込など、実際には滞納ではないケースもあります。焦って強い督促をしてしまうと、入居者との関係が悪化する可能性があります。

最初に確認すべきポイントは以下のとおりです。

確認項目 内容
入金口座 別口座に入金されていないか
振込名義 契約者本人以外の名義で振り込まれていないか
管理会社の送金状況 管理会社側の処理遅れではないか
契約書の支払期日 支払期日・猶予期間の記載を確認
保証会社の契約内容 代位弁済請求の期限や報告方法を確認
連帯保証人の有無 保証人へ連絡できるか確認
過去の支払い履歴 今回だけの遅れか、常習的な滞納か

特に注意したいのが、保証会社への連絡期限です。

家賃保証会社を利用している場合、滞納が発生してから一定期間内に報告しないと、代位弁済を受けられないことがあります。契約内容によって期限は異なるため、滞納を確認したら早めに保証会社へ連絡しましょう。

また、入居者への連絡内容は必ず記録に残してください。電話で話した日時、SMSやメールの文面、入居者の回答、約束した支払日などをメモしておくことで、後の督促や法的手続きで役立ちます。

強制退去までの5つのステップ

家賃滞納が続いた場合でも、大家や管理会社がすぐに入居者を強制退去させることはできません。まずは入居者への連絡や督促を行い、それでも支払い・退去に応じない場合は、契約解除や明渡し請求訴訟などの法的手続きを進める必要があります。強制退去までの流れは、主に次の5つのステップに分かれます。

ステップ1:口頭・電話での連絡

家賃の入金が確認できない場合、まずは入居者本人に連絡します。この段階では、強い口調で責めるのではなく、「お家賃の入金が確認できていないのですが、ご確認いただけますでしょうか」といった穏やかなトーンで確認しましょう。

1日〜2日の遅れであれば、単なる振込忘れや残高不足であるケースもあります。最初から「退去してください」「法的手続きを取ります」と伝えると、入居者が連絡を避けるようになり、かえって解決が難しくなることがあります。

確認内容 ポイント
支払い忘れかどうか 本人が滞納を認識しているか確認
入金予定日 いつまでに支払えるか具体的な日付を聞く
滞納理由 失業、病気、収入減少などの事情があるか
今後の支払い見込み 一時的な遅れか、継続的に払えないのか
連絡可能な手段 電話・SMS・メールのどれが確実か

この段階で支払い予定日を約束した場合は、必ず記録に残しましょう。
「○月○日に支払う」と口頭で言われただけでは、後から証拠として使いにくくなります。SMSやメールで「本日のお電話で、○月○日までにご入金いただくと確認しました」と送っておくと、記録が残ります。

ステップ2:内容証明郵便で督促

電話やSMSで連絡しても支払いがない場合、または入居者と連絡が取れない場合は、書面で督促を行います。まずは普通郵便やメールで督促状を送っても構いませんが、滞納が1ヶ月を超え、契約解除や訴訟を視野に入れる場合は、内容証明郵便を利用するのが一般的です。

内容証明郵便とは、「いつ、どのような内容の文書を、誰から誰へ差し出したか」を郵便局が証明するサービスです。日本郵便も、内容証明は一般書留郵便物の内容文書について証明するサービスであり、文書の内容が真実であること自体を証明するものではないと説明しています。

文面は感情的にせず、事実と請求内容を淡々と記載することが大切です。
たとえば、以下のような表現です。
>令和○年○月分から令和○年○月分までの賃料合計○○円が未払いとなっています。本書到達後○日以内に上記金額をお支払いください。期限までにお支払いが確認できない場合、賃貸借契約を解除し、建物明渡し請求その他の法的手続きを行うことがあります。

内容証明郵便は、後の裁判で「催告したこと」を示す証拠になります。ただし、文面を誤ると不利になる可能性もあるため、滞納額が大きい場合や入居者との関係が悪化している場合は、弁護士に相談してから送ると安心です。

ステップ3:契約解除通知

督促状で定めた期限までに支払いがない場合、賃貸借契約の解除通知を送ります。ただし、家賃を1回滞納しただけで、すぐに契約解除が認められるとは限りません。賃貸借契約は継続的な契約関係であるため、裁判では「貸主と借主の信頼関係が破壊されたか」が重視されます。

実務上は、3ヶ月分以上の滞納があると信頼関係が破壊されたと判断されやすいといわれます。ただし、3ヶ月という数字は絶対的な基準ではありません。過去の支払い状況、督促への対応、滞納理由、支払い意思の有無などによって判断は変わります。

ここまで来ると、入居者との任意交渉だけでは解決が難しいケースも多くなります。契約解除が有効かどうかは個別事情によって変わるため、3ヶ月以上の滞納が発生している場合は、弁護士への相談を検討しましょう。

ステップ4:明渡し請求訴訟

契約解除通知を送っても入居者が退去しない場合、裁判所に建物明渡し請求訴訟を起こします。建物明渡し請求訴訟とは、入居者に対して「建物を明け渡してください」と裁判で求める手続きです。多くの場合、滞納家賃の支払い請求もあわせて行います。
訴訟では、主に以下の点が確認されます。

確認される内容 具体例
賃貸借契約の存在 契約書、重要事項説明書など
家賃滞納の事実 入金履歴、通帳、管理会社の明細
督促の経緯 電話記録、SMS、督促状、内容証明
契約解除の有効性 解除通知、滞納期間、信頼関係破壊
入居者の占有状況 現在も居住しているか

入居者が裁判に出席しない場合でも、必要な証拠が整っていれば、貸主側の請求が認められることがあります。一方で、証拠が不足していると、手続きが長引く可能性があります。

建物明渡し請求訴訟は、準備から判決まで数ヶ月かかることが一般的です。弁護士費用、裁判所費用、強制執行費用なども発生するため、滞納額が小さいうちに早めに対応することが重要です。

ステップ5:強制執行(強制退去の実行)

裁判で明渡しを命じる判決が出ても、入居者が自主的に退去しない場合は、強制執行を申し立てます。

強制執行は、大家や管理会社が自分で行うものではありません。裁判所の執行官に申し立て、執行官が現地に赴いて建物の明渡しを進めます。裁判所の案内でも、不動産引渡し・明渡し執行の申立ては、目的不動産の所在地を管轄する地方裁判所に所属する執行官に対して書面で行うとされています。民事執行法では、不動産等の明渡しの強制執行について、執行官による明渡しの催告や引渡し期限などが定められています。

注意したいのは、強制執行にかかる費用の多くを、いったん大家側が立て替える必要があることです。執行官への予納金、鍵業者、荷物搬出業者、保管費用などが発生します。入居者に請求できる場合でも、実際に回収できるとは限りません。

そのため、強制執行まで進めるかどうかは、滞納額、今後の家賃損失、物件の収益性、入居者の状況を踏まえて判断する必要があります

大家が絶対にやってはいけない「自力救済」

家賃を払わない入居者に腹が立っても、以下の行為は絶対にNGです。法律で禁止されており、逆に大家が損害賠償を請求されるケースがあります。

  • 鍵を勝手に交換して入居者を締め出す
  • 入居者の荷物を無断で搬出・処分する
  • 電気・ガス・水道を無断で止める
  • 深夜・早朝に大声で退去を迫る

どれほど悪質な滞納者であっても、法的手続きを踏む必要があります。感情的な行動が、大家側の立場を著しく悪化させます。実際に、滞納家賃の支払いを強制する目的でマンションの玄関の鍵を無断交換した行為について、賃貸人の不法行為責任を認めた裁判例があります。

大家側からすると、「家賃を払っていないのだから、こちらが鍵を替えても当然ではないか」と感じるかもしれません。しかし、入居者には占有権があり、退去させるには裁判所の手続きが必要です。

自力救済をしてしまうと、滞納家賃を回収できないだけでなく、大家側が損害賠償を支払う立場になることもあります。感情的に動かず、必ず法的手続きに沿って対応しましょう。

滞納リスクを減らすための3つの予防策

滞納が起きてから対応することも大切ですが、大家にとって本当に重要なのは「そもそも滞納が起きにくい仕組み」を作っておくことです。入居前の審査、保証会社の利用、管理体制の整備をしておけば、滞納リスクや対応の負担をかなり減らせます。

ここでは、家賃滞納を防ぐために押さえておきたい3つの予防策を紹介します。

①家賃保証会社への加入を必須にする

最も有効な滞納対策のひとつが、家賃保証会社の利用です。保証会社に加入していれば、入居者が家賃を滞納した場合でも、保証会社が家賃を立て替えてくれるため、大家の収入が途切れにくくなります。

特に、以下のような物件では保証会社の利用を必須にしておくと安心です。

  • 単身者向け物件
  • 学生向け物件
  • 高齢者向け物件
  • 外国籍入居者が多い物件
  • 築古で家賃帯が低い物件
  • 自主管理している物件

ただし、保証会社によって保証範囲は異なります。家賃だけでなく、原状回復費、残置物撤去費、訴訟費用、明渡し費用まで保証されるか確認しておきましょう。

②入居審査を厳格にする

入居審査が甘いと、滞納リスクの高い入居者を受け入れてしまう可能性があります。空室を早く埋めたい気持ちはわかりますが、「誰でもいいから入居してほしい」という判断は危険です。入居後に家賃滞納やトラブルが発生すれば、空室期間以上の損失が出ることもあります。

家賃は、一般的に月収の3分の1以下が目安とされます。もちろん、家族構成や生活費、勤務形態によって判断は変わりますが、家賃負担が重すぎる入居者は滞納リスクが高くなります。

③管理会社に任せる

自主管理の場合、大家が自分で入金確認・督促・記録管理を行う必要があります。しかし、本業が忙しい大家や複数物件を所有している大家の場合、滞納への初動対応が遅れがちです。管理会社に委託すれば、滞納の早期発見、督促、保証会社との連携を任せられます。

管理費は家賃収入の数%程度かかりますが、滞納対応やトラブル対応の手間を考えると、管理会社への委託は合理的な選択肢です。

まとめ

家賃滞納から強制退去までの流れは、以下の5ステップです。

  1. 口頭・電話・SMSで入居者に連絡する
  2. 書面・内容証明郵便で督促する
  3. 賃貸借契約の解除通知を送る
  4. 建物明渡し請求訴訟を起こす
  5. 強制執行で退去を実行する

家賃滞納は、1日〜2日程度であれば振込忘れの可能性もあります。しかし、1ヶ月を超えると意図的な不払いや経済的困窮の可能性が高まり、2ヶ月、3ヶ月と続く場合は、法的手続きを視野に入れるべき段階です。一方で、大家が絶対にやってはいけないのが自力救済です。鍵を勝手に交換する、荷物を無断で処分する、ライフラインを止める、深夜に督促するなどの行為は、大家側が損害賠償を請求されるリスクがあります。

滞納対応で大切なのは、感情的にならず、証拠を残しながら段階的に進めることです。また、滞納が起きてから対応するだけでなく、保証会社の利用、厳格な入居審査、口座振替、管理会社への委託、滞納時の対応ルール整備によって、滞納リスクを事前に減らすことも重要です。

賃貸経営では、家賃滞納を完全にゼロにすることは難しいかもしれません。しかし、正しい対応手順を知っておけば、損失を最小限に抑えることは可能です。「どこまで待つべきか」ではなく、「滞納が発生した時点で、どのように動くか」をあらかじめ決めておきましょう。早期対応と専門家の活用が、大家の資産と収益を守る鍵になります。家賃滞納は、大家業で起こるトラブルの一部にすぎません。

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