不動産投資で法人化しない理由7選|個人のままで良いケースと判断基準
「法人化した方が節税になる」「最初の1棟を買う前に法人を設立すべき」
不動産投資の情報を調べていると、こうした声を目にする機会が増えてきた方も多いのではないでしょうか。
実際に1〜3棟の収益物件を保有するサラリーマン投資家の中には、「自分も法人化しないと損をするのでは」という漠然とした不安を抱えながらも、設立コストや手続きの煩雑さ、副業規定への抵触リスクを考えると踏み切れない、という方が少なくありません。
しかし実態として、約8,000名のオーナーの物件を管理する不動産会社のデータでも、法人名義で物件を所有するオーナーはごく一部にとどまります。多くのオーナーにとって、法人化は必須ではないのが現実です。
本記事では、不動産投資で法人化しない具体的な理由を7つの観点から掘り下げます。法人化しない方が良いケースの判断基準や、反対に法人化を検討すべきタイミングまで、自分の現在地を把握するために必要な情報をまとめて確認できます。
「本当に自分には法人化が必要なのか」を冷静に見極めたい方は、ぜひ最後まで読み進めてみてください。
不動産投資の「法人化」とは?個人との違いをおさらい
不動産投資における法人化とは、個人で行っていた不動産の所有・運用を法人(資産管理会社)に移すことを指します。投資家自身が代表となる資産管理会社を設立し、法人が不動産を所有・運用する形態に切り替えたうえで、代表者は役員報酬として収益を受け取ります。
法人化の最大の目的は節税です。ただし、税制・手続き・費用・融資の面で個人とは大きく異なり、すべての投資家にとってメリットが生まれるわけではありません。まずは個人と法人の基本的な違いを確認しておきましょう。
| 比較項目 | 個人 | 法人 |
| 税制 | 累進課税(最大税率55%) | 法人実効税率(約33%) |
| 設立費用 | 不要 | 株式会社:25〜30万円程度 合同会社:10〜15万円程度 |
| ランニングコスト | 確定申告程度 | 税理士顧問料・決算費用など年20〜30万円程度 |
| 融資 | 個人の属性・信用力が基準 | 法人の実績・決算内容が基準(設立直後は不利になりやすい) |
| 長期譲渡税率(5年超売却) | 約20%(軽減税率適用) | 約33%(保有期間問わず実効税率が適用) |
| 副業規定リスク | 低い(資産運用として容認されやすい) | 役員就任・役員報酬受取で抵触リスクあり |
法人化は「節税のための有効な手段」として注目されていますが、個人のままの方が有利なケースも数多く存在します。
関連記事:【初心者のための不動産投資入門】不動産投資初心者が押さえるべきポイントや成功に近づくための方法を徹底解説!
不動産投資で法人化しない7つの理由
法人化にはメリットがある一方で、コストや税制、手続きの面で無視できないデメリットも存在します。法人化しない理由として挙げられる主な観点は、以下の7つです。
- 設立費用だけで数十万円かかる
- 赤字でも法人住民税(均等割)がかかる
- ランニングコストが毎年発生する
- 長期保有物件の売却時に税負担が増える
- 途中で法人化すると追加コストが二重にかかる
- サラリーマンは副業規定に抵触する可能性がある
- 廃業時にも費用と手間がかかる
設立費用だけで数十万円かかる
法人を設立する際には、定款の作成・認証費用、登録免許税、司法書士への報酬など、複数の費用が積み重なります。株式会社の場合は25〜30万円程度、比較的設立しやすい合同会社でも10〜15万円程度が目安です。
個人が不動産投資を始める場合、これらの費用は一切かかりません。特に物件数が少なく家賃収入がまだ少ない段階では、設立コストだけで投資収益を大きく圧迫するリスクがあります。
法人化による節税メリットを享受できる収益水準に達していない段階で設立に踏み切ると、コストだけが先行して収支が悪化するケースも少なくありません。
赤字でも法人税(均等割)がかかる
法人は、事業が赤字だったとしても法人税の均等割を必ず納税しなければなりません。東京23区内に所在する法人の場合、最低でも年間7万円程度の負担が固定で発生します。
一方、個人事業主は赤字の年には所得税・住民税が発生しないため、収益が落ち込んだ時期でも税負担が軽くなります。収益が安定していない投資初期や、大規模修繕などで一時的に赤字になる時期には、法人住民税の均等割が特に重い固定コストとして経営を圧迫してしまうでしょう。
ランニングコストが毎年発生する
法人を維持するためには、設立後も毎年継続的なコストがかかります。税理士への顧問料と決算費用だけで年間20〜30万円程度が相場であり、社会保険の手続きや会計ソフトの費用なども加算されるでしょう。
個人の場合、確定申告は比較的シンプルな手続きで済みますが、法人の税務申告は複数の別表作成が必要で、専門知識がなければ自力での対応が難しくなります。そのため、ほぼ必然的に税理士への委託が発生し、コスト増が避けられない構造になっています。
節税効果がランニングコストを上回る収益規模に達していない段階では、法人化は手元資金を減らすだけになりかねません。
長期保有物件の売却時に税負担が増える
個人が5年を超えて保有した不動産を売却する場合、長期譲渡所得として軽減税率が適用されます。所得税約15%・住民税5%の合計約20%が税率の目安です。
法人が不動産を売却する際は、保有期間に関係なく法人実効税率(約33%)が適用されます。5年超保有後の売却では、個人と法人で税率に約13%もの差が生まれる計算です。
| 売却パターン | 所得税 | 住民税 | 合計税率 |
| 個人(5年以下・短期) | 30.63% | 9% | 約39% |
| 個人(5年超・長期) | 15.315% | 5% | 約20% |
| 法人(保有期間問わず) | ー | ー | 約33% |
不動産投資は長期保有を前提とするケースが大半を占めます。売却益を将来的な収益の柱と考えている投資家にとって、法人化による税率上昇は見逃せない判断材料です。
関連記事:不動産投資用物件を売却するときの流れは?売却する最適なタイミングや税金についても解説
途中で法人化すると追加コストが二重にかかる
個人名義で保有している不動産を法人へ移転する際、名義変更は「売買(譲渡)」とみなされます。不動産取得税・登録免許税・印紙税・司法書士報酬が改めて発生します。
購入時にすでに支払っている費用と同種のコストが再度かかるため、途中で法人化に切り替えると二重の出費を強いられます。「最初の1棟から法人化すべき」と言われる背景には、後から切り替えた場合の余計なコスト負担を避けるという意図があります。
サラリーマンは副業規定に抵触する可能性がある
個人として不動産投資を行うケースは、資産運用の一環として副業禁止規定の対象外になることが一般的です。しかし、法人を設立して役員に就任したり、役員報酬を受け取ったりする行為は、勤務先の副業禁止規定に抵触する可能性があります。
副業の可否をめぐる線引きは会社ごとに異なるため、法人化を検討する前に就業規則を必ず確認することが重要です。特に公務員は、法人化した不動産投資・運用を行うことが原則として禁止されています。法人化後に規定違反が発覚すると、懲戒処分などのリスクにもつながりかねません。
関連記事:公務員が不動産投資は問題にならない?副業禁止規定に該当しないための条件や成功のためのコツを詳しく解説します!
廃業時にも費用と手間がかかる
法人を解散・清算する際には、解散登記・清算手続き・官報への公告掲載といった複数の手続きが必要です。実費だけで、7〜8万円程度かかります。
手続きを税理士や司法書士などの専門家に依頼する場合、さらに30〜50万円程度の報酬が加算されます。法人化の判断をする際には、設立時のコストだけでなく、撤退・廃業時の出口コストまで含めた総合的な収支で考えることが不可欠です。
法人化しない方が良い5つのケース
法人化しない理由を踏まえたうえで、実際に「自分は該当するか」を判断できるよう、具体的なケースを整理しました。以下の5つのケースに当てはまる方は、現時点での法人化を急ぐ必要はないと言えます。
- 所有物件数が少なく家賃収入が少ない
- 本業の給与所得が低い
- 長期保有して売却益を狙う投資スタイルである
- 相続対策を目的に不動産投資をしている
- お金の使い方の自由度を重視している
所有物件数が少なく家賃収入が少ない
物件数が少なく不動産所得がまだ少ない段階では、法人化による節税効果よりも設立・維持にかかるコストの方が大きくなりやすいでしょう。株式会社の設立費用だけで25〜30万円、さらに毎年の税理士顧問料や均等割などのランニングコストが積み重なります。
不動産所得が少額であれば、確定申告の手続きも比較的シンプルに対応可能です。小規模な運用段階では個人のまま投資を続け、収益・物件規模が拡大したタイミングで法人化を改めて検討する方が合理的な判断といえます。
本業の給与所得が低い
法人化の節税メリットは、個人の所得税率が法人実効税率(約33%)を上回ることで初めて生まれます。本業の給与所得が低く、給与所得と不動産所得を合算した課税所得が少ない段階では、累進課税の影響が小さいため、税率差によるメリットがほとんど発生しません。
不動産投資において赤字が出た場合、個人であれば給与所得との損益通算で節税につなげられます。ただし、そもそも給与所得が少なければ通算できる税額も限られます。収益水準が低い段階では、法人化よりも本業収入と不動産収益の底上げを優先すべき時期といえます。
長期保有して売却益を狙う投資スタイルである
5年を超えて保有した物件を売却する場合、個人には長期譲渡所得の軽減税率(約20%)が適用されます。法人の場合は保有期間に関係なく実効税率(約33%)が課されるため、長期保有後の売却では個人の方が約13%も税負担が低くなるのです。
売却益(キャピタルゲイン)を主な収益源とする投資スタイルでは、個人で運用する方が手元に残る資産を大きくできます。家賃収入(インカムゲイン)を主軸に据えながら投資規模が拡大しているケースでは、法人化の検討余地が生まれますが、売却益メインの戦略には個人の方が税制上有利です。
相続対策を目的に不動産投資をしている
個人名義でアパートを建築した場合、建物の相続評価額は建築費のおよそ50%まで圧縮されます。1億円のローンでアパートを建てると、相続評価は5,000万円となり、残りの5,000万円分が資産圧縮につながります。
法人名義の建物は簿価(減価償却後の残存価額)で評価されるため、個人ほど評価額が下がりません。さらに、個人名義の土地の上に法人名義で建物を建てると、土地の評価が「貸家建付地」ではなく「借地」扱いとなり、通常約18%受けられる土地の評価減が消えてしまいます。相続対策を主目的とする地主は、原則として個人名義での運用が有利です。
お金の使い方の自由度を重視している
個人で不動産投資を行う場合、収益から経費や税金を差し引いた手元資金は自由に使うことができます。貯蓄に回しても、生活費や趣味に充てても、特に制約はありません。
法人で得た収益は剰余金として扱われ、役員報酬として設定しなければ個人の用途に充てることができません。役員報酬の金額設定を誤ると、日常的に使える手元資金が想定より少なくなるリスクもあります。手取り収入を自由に管理したい方にとって、法人化は必ずしも快適な選択とはいえません。
法人化を検討すべき目安と判断基準
法人化しない方が良いケースを踏まえたうえで「ではいつ法人化を検討すべきか」という疑問が生まれるかもしれません。以下の3つの観点から、法人化が有効になる条件を確認しておきましょう。
- 課税所得が900万円を超えたとき
- 投資規模を拡大する意思が固まったとき
- 事業承継・相続対策が必要になったとき
課税所得が900万円を超えたとき
個人の所得税率は累進課税のため、課税所得が900万円を超えると所得税率33%・住民税10%の合計43%が適用されます。法人実効税率(約33%)を上回るタイミングであり、法人化による節税メリットが生まれやすくなります。
| 課税所得 | 所得税率 | 住民税 | 合計税率 | 法人実効税率との比較 |
| 330万円以下 | 10% | 10% | 約20% | 法人の方が高い |
| 330万〜695万円 | 20% | 10% | 約30% | 法人の方が高い |
| 695万〜900万円 | 23% | 10% | 約33% | ほぼ同水準 |
| 900万〜1,800万円 | 33% | 10% | 約43% | 個人の方が高い |
| 1,800万円超 | 40〜45% | 10% | 約50〜55% | 個人の方が高い |
具体的な目安として、給与収入と家賃収入の合計が年間1,500万円を超え、かつ家賃収入単独で年間600万円以上の黒字を確保できている状態が法人化を検討するひとつの基準です。先に収益水準を高めてから法人化するという順番が、コストと節税メリットのバランスを取るうえで重要です。
関連記事:不動産投資でできる税金対策は3つ!不動産投資の節税メリットとデメリットを紹介!
投資規模を拡大する意思が固まったとき
複数の金融機関から融資を受けながら物件を増やすフェーズに入ると、法人としての社会的信用力が融資審査に有利に働く場面が増えます。個人よりも法人の方が会計処理の透明性が高く評価されやすく、融資枠の拡大につながるケースがあります。
不動産投資を本業・副業として本格化させると決断したタイミングが、法人化を検討する節目といえるでしょう。ただし、法人化後は税理士顧問料や決算費用などの運営コストに加え、会計・税務申告の管理業務も増加します。収益拡大の見込みと増加するコスト・負担を天秤にかけたうえで判断することが大切です。
事業承継・相続対策が必要になったとき
不動産を個人名義で所有している場合、相続発生時には名義変更などの費用が発生します。法人名義で不動産を保有していれば、株式の相続という形で経営権を引き継げるため、手続きの煩雑さを軽減できる場面があります。
また、家族を役員として迎えて役員報酬を支払うと、法人側では経費計上でき、家族個人の所得税負担も分散可能です。加えて、株式は均等に分割して複数の相続人に渡せるため、不動産そのものを分割できないケースの資産分割対策としても法人化が機能します。
まとめ
不動産投資における法人化は、すべての投資家にとってメリットがある選択ではありません。設立・維持コスト、長期保有物件の売却時の税負担、副業規定への抵触リスク、廃業時の出口コストなど、法人化しない理由は多岐にわたります。
自分に法人化が必要かどうかを判断する際は、以下の5つの軸で現在地を確認してみましょう。
- 課税所得の水準(900万円を超えているか)
- 物件規模・家賃収入の大きさ
- 売却益・家賃収入どちらを主軸とした投資スタイルか
- 勤務先の副業規定の内容
- 将来的な事業承継・相続対策の必要性
法人化による節税メリットが生まれるのは、あくまで収益水準が一定以上に達してからです。先に収益を高め、必要なタイミングで法人化を検討するという順番が、手取りを最大化するうえで合理的な判断といえます。
迷いを感じている方は、税理士や不動産コンサルタントなどの専門家に相談することをお勧めします。神・大家さん倶楽部では、不動産投資の理論から購入・管理・売却の実践スキルまでを学べる講座やセミナーを提供しています。本記事が、自分に合った投資判断を下すためのきっかけになれば幸いです。













































