不動産投資では法人化をすべきなのか?不動産投資の法人化についてのメリット・デメリットや法人化するタイミングについて解説します
不動産投資を行って不動産所得が増えてくると、法人化を考える方も多いのではないでしょうか。しかし、「不動産投資の法人化とはどのようなものか」や「法人化することでどんなメリットが得られるのか」が分からず、迷っている方もおられるでしょう。
そこで、本記事では、不動産投資を法人化することの意味や法人化することのメリット・デメリット、法人化のタイミングや手続きを詳しく解説します。
現在、法人化するべきかどうかを迷っている方は、ぜひ、ご覧ください。
目次
不動産投資を法人化するとは
不動産投資を法人化するとは、自己で所有する投資用物件などの資産を管理するために会社を設立することで、不動産投資の管理を個人から法人に移すことです。
会社と聞くと、私たちが想像するのは、営利を目的としたものではないでしょうか。しかし、不動産投資を法人化した場合は、そのような会社とは異なり、新しい事業活動を行わず、会社設立者の資産管理を目的とした資産管理会社になります。
不動産投資の場合、法人化するかどうかは個人の判断に任せられています。それでは、なぜ、不動産投資を法人化する人がいるのでしょうか。
詳しくはメリットの部分で解説しますが、主な理由として、不動産投資を法人化することで節税効果が期待できるからです。不動産投資は法人化することによって、個人で行うよりも節税効果が見込めます。
不動産投資を法人化するメリット
不動産投資を行う際に、法人化するメリットはさまざまです。ここでは、不動産投資を法人化するメリットについて解説します。法人化することで得られるメリットは、以下のとおりです。
- 税金を抑えることができる
- 経費として計上できる範囲が広がる
- 融資が受けやすくなる
- 減価償却について選択できる
- 損失の繰越期間が長くなる
税金を抑えることができる
不動産投資を法人化した場合、課税される税金が異なります。個人で不動産投資を行って得られた所得については、所得税が課せられていました。法人化した場合、不動産投資を行って得られた所得には、所得税ではなく「法人税」が課せられます。
法人税の税率は、例えば資本金が1億円以下の法人の場合、課税所得が800万円以下の部分について15%が課せられ(適応除外事業者の場合は19%)ます。800万円を超える部分についての税率は23.20%です。
所得税は累進課税制を採用しているため、所得額に応じて5%〜45%の税率が適用されます。そのため、一定の所得からは法人よりも高い税率が適用されるため、法人化することで税金を抑えることが可能です。
経費として計上できる範囲が広がる
不動産投資を個人で行う場合でも、法人化して行う場合でも、経費を計上することができます。しかし、経費として計上できる項目が個人と法人では異なります。個人の場合では経費として計上することができず、損益通算ができないものでも、法人であれば経費として計上することが可能です。
例えば、投資用物件の売買について、個人で不動産投資を行っている場合、譲渡取得税は経費として計上することはできません。
一方、法人が行う場合については、事業の範囲内で行われる経済活動としてみなされるため、投資用物件の売却によって損失が出た場合、経費として計上することができます。
また、個人で不動産投資を行っている場合、本人の人件費を経費として計上することはできませんが、法人化すると役員報酬として人件費を経費として計上することが可能です。
融資が受けやすくなる
不動産投資を法人化すると、金融機関からの融資が受けやすくなる場合があります。法人は、登記されていることで、会社の情報が広く開示されていることや、個人で事業を行うよりも厳密に会計処理を行う必要があることなどから、社会的信用が高くなるためです。
また、個人の場合、融資を行う際に死亡や相続などについて、金融機関が考慮する必要があります。一方、法人は法律上「人」として扱われますが、死亡や相続などを考慮しなくても良いという点も融資が受けやすくなる理由として考えられるでしょう。
法人としての実績や借り入れの状況で異なってきますが、法人と個人を比べると信用が大きい法人の方が、より大きな額の借り入れも可能です。
減価償却について選択できる
個人で不動産投資を行う場合、減価償却は必ず耐用年数に応じた期間、一定の額を経費として計上する必要があります。
一方、法人の場合、減価償却は任意償却とされており、経費として計上する額を自由に決めることが可能です。また、減価償却しないという選択もできます。任意償却とされていますが、税法上定められた額を超えることはできませんので注意しましょう。
法人化によって、減価償却費を抑えた場合のメリットとして、売却時の譲渡取得税が低くなる点が挙げられます。
不動産投資物件を売却することで得られる利益は、売却額と帳簿価額との差によって算出されます。つまり、減価償却を抑えておくことで売却額と帳簿価額の差が小さくなるため、譲渡所得税が低くなるのです。
損失の繰越期間が長くなる
他の事業でも言えることですが、不動産投資においても毎年利益を出せるわけではありません。
損失繰越とは、年度において損益通算しても損失が発生してしまう場合、その損失を数年にわたって繰り越すことができる制度です。赤字分を繰り越して所得と相殺することができるため、節税効果を得られます。
個人で不動産投資を行っている場合、青色申告者であれば最大で3年間繰り越しができますが、法人の場合はその期間が10年と長くなっています。
繰越期間が長くなる分、個人の場合よりも発生した赤字を節税に活用することが可能です。
不動産投資を法人化するデメリット
不動産投資を法人化することで、さまざまなメリットを得ることができます。しかし、その反面、デメリットもあるため、法人化を考えている場合は比較して慎重に検討する必要があります。
不動産投資を法人化するデメリットは以下の通りです。
- 法人設立には時間と費用がかかる
- 長期譲渡の優遇税制が利用でない
- 赤字の場合でも税金の負担がある
以下で、それぞれのデメリットについて解説します。
法人設立には時間と費用がかかる
個人事業主として開業する場合、税務署に開業届を提出するだけで手続きは終了します。一方、法人化する際には、さまざまな手続きが必要です。
法人化する場合、法務局で商業・法人登記を行う必要があります。また、株式会社を設立数場合には商業・法人登記に先立って、公証役場で定款認証を行わなくてはいけません。
登記は自分でも行うことができますが、登記申請書の作成など、専門的な知識が必要なこともあるため、司法書士に依頼することをおすすめします。
法人化するための費用は、司法書士に依頼した場合、株式会社で約20万円〜30万円、合同会社で6万円〜10万円です。
さらに、法人化後の経営にかかるランニングコストも考慮しなくてはいけません。法人の会計には個人の場合よりも厳密であることが求められるため、税理士などの専門家にコンサルタント料を支払い、継続的な支援を受ける必要があるでしょう。
このように、不動産投資を法人化することは、個人で行うよりも多くの手間と費用がかかります。
長期譲渡の税制優遇が利用できない
個人で不動産投資を行っている場合、投資用物件を所有している期間に応じて、売却益にかかる所得税が変動します。所有期間が5年以上の場合、長期譲渡所得として約20%の税率が、5年以下の場合、短期譲渡所得として約40%の税率が課せられるため、5年以上所有することで節税効果が得られました(長期譲渡所得の優遇税制)。
しかし、法人化した場合、物件の所有期間の長短にかかわらず、一定の税率が課せられるため、長期譲渡所得の優遇税制を利用することができません。
法人に課せられる税率は約22%のため、物件を5年以上所有する場合は個人と比べて節税効果が期待できなくなります。
赤字の場合でも税金の負担がある
個人についても法人についても、住民税を納付しなくてはいけません。住民税は、個人や法人の所得に課せられる所得割と、個人であれば世帯人数など、法人であれば従業員数や資本金の額などに応じた均等割で構成されています。
個人の場合、不動産投資で損失が生じて赤字になっていたり、合計所得が一定以下となっていたりすると住民税は課税されません。
一方、法人の場合、不動産投資で赤字が出ていても均等割の部分については支払う必要があります。赤字でも税金を支払う必要があるので、法人化を考えている方は、その点も考慮しなくてはいけません。
不動産投資を法人化するタイミング
不動産投資を法人化することのメリット・デメリットを比較して、「今すぐに法人化しよう」と考えた方もおられるでしょう。しかし、不動産投資を法人化するには、適切なタイミングがあります。法人化のタイミングを見誤ると、損をする可能性もあります。
法人化をするオススメなタイミングは、「不動産所得が330万円」となったときです。
不動産投資を法人化した場合、その規模は中小企業が多いとされています。中小企業の法人所得は800万円以下のことが多く、その税率は15%です。
個人で不動産投資を行っている場合、課税所得が330万円になると、その税率は20%です。つまり、法人税率を超えるため、不動産投資を行って所得が330万円以上となったときが法人化のタイミングといえるでしょう。
また、不動産投資の規模を拡大しようと考えている場合も、法人化するタイミングと言えます。
法人化するメリットでもお伝えしたように、個人よりも法人の方が融資を受けられる可能性が高くなります。さらに、個人名義で融資を申し込む場合、連帯保証人を求められるでしょう。その際には、保証人を探す必要があります。
一方、法人の場合、保証人に自分自身に設定することができるため、保証人を探す手間が省けるという点でも、事業規模の拡大を考えている際には、法人化をしておくことがおすすめです。
不動産投資を法人化するための手続き
最後に、不動産投資を法人化するための手続きについて簡単に説明します。
まずは会社設立のための準備を行います。会社設立のために、代表者印や会社印、銀行印の作成を依頼し、会社名や本店所在地、事業目的などを決定しましょう。
会社が事業として行えるのは、事業目的に記載された事業範囲だけです。法人化後に事業の幅をもたせるために「前各号に付帯する一切の事業」と記載しておくことをおすすめします。
会社設立のための準備が整ったら、定款の作成と認証を行いましょう。定款とは、会社を運営していく上の基本的規則です。定款の作成、認証ともに専門的な知識が必要となるため、専門家である司法書士に依頼することがおすすめです。
定款の作成・認証が完了したら、いよいよ登記書類を作成し、法務局へ提出します。こちらも、専門的な知識が必要となることがあるので、司法書士に依頼することをおすすめします。
法務局で手続きが完了したら、税務署へ行き、開業届を提出して不動産投資の法人化の手続きは終了です。
まとめ
不動産投資を始めて、利益が増えてくると法人化を考える方は多くなります。法人化することで、節税効果が高まることを期待でき、事業規模の拡大も視野に入れることが可能です。
しかし、法人化の際にタイミングを見誤ってしまうと、法人化のメリットを活かせず、損失につながってしまうことも考慮しておきましょう。
法人化を考えている方は、法人化のメリット・デメリットを比較し、適切なタイミングを見定める必要があります。本記事が、参考になれば幸いです。